熊本百景 一 本荘マンションの雨

金龍堂まるぶん店

2016年06月24日 18:30

熊本百景 -本と僕と熊本の100コ-

本荘のマンションに10年住んでいた。築30ウン年、6畳一間のユニットバス。

大学病院が目の前にあるので、年中、昼夜を問わず救急車のサイレンに驚かされた。
ベランダに寄りつく鳩にも悩まされた。昼夜を問わず糞をされた。
ペットボトルを見ると去っていくだとか、CDの円盤が苦手だとか、何だとか。
掴んだ鳩撃退情報はなんでも試したが、その度に奴らは逞しくなって帰ってきた。

雨漏りにも悩まされた。
いや、アノ部屋の場合、”雨染み上がり”というべきか。
長雨が降ると、畳が水に染まっていくのだ。

ある夜中、なんだか背中や尻が冷たくて目が覚めた。
まさか、オネショ・・・?と一瞬疑ったが、ぐちょぐちょになった敷布団を見て「そんなに水飲んでないし」と我に返った。
いや、外から聞こえる豪雨の音に「コリャ雨漏りだ」と我に返った。
起きると、6畳の部屋半分が水浸しになっていた。家具や衣類、いろんなものが濡れた。

一番困ったのは、その夜読みながら寝てしまい、枕元に置いていた村上春樹の『ノルウェーの森』下巻である。
文庫本は水をたっぷり含み、3倍くらいの厚さになっていた。濡れた紙はピッタリ貼りつき、全く開かない。
もう読めないじゃないか。どこまで読んだのかもわからない。

「『グレート・ギャツビィ』を3回読む男なら俺と友だちになれる」は『ノルウェーの森』での永沢さんの名言だ。
僕はそれにあやかり3度目の『ノル森』に挑んだのだが、あえなく断念。

しかし、僕は『ノル森』を3回も読んで、いったい誰と友だちになりたかったのか。読んでるうちに忘れてしまった。
ベランダでくつろぐ鳩たちでないことだけは確かだ。

大雨が続く熊本の梅雨。
あの本荘のマンションは、今日も雨が染み上がっているのだろうか。

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